有楽町は無表情にそれを口にした池袋の姿に、ふと眉を顰めた。
彼が手にしていたのは、一粒のカプセル。
具合でも悪いのだろうか。そう思って、彼の元へと小走りで近付いていった。
元より表情豊かとは言い難い池袋だ。
具合が悪かったとしても、堪えてしまうだろうから……。
有楽町線内で終電間近に起こったトラブルは、さほど大きなものではなかった。
だが、少なからずとも迷惑を掛けたことは事実。
東上へも声を掛けようと思ったのだが、有楽町の姿を見つけた段階で彼は片手で有楽町をあしらった。
特に謝罪されるほどのことではない、そう言いたかったのだろう。
続いて訪れた池袋の元で、有楽町はその光景に出くわしたのだ。
終電が終わった後の、自分のホームの片隅でカプセルを飲み下す。
まるで、隠れるかのようなその行動が有楽町の不安を煽ったから。
「……池袋、具合でも悪いのか?」
小走りで近付いてきた有楽町に気付いてはいたのだろう。
いつもなら駆けるなと小言を言われるところだが、ホームとはいえ、すでに終電後。
あまり目くじらを立てて注意するつもりはないらしい。
池袋は有楽町の姿を確認すると、そのまま視線を逸らして呟いた。
「別に何処も悪くないが」
「だって、それ薬だろ?」
少し言葉がきつくなってしまったような気がしたが、それは心配が高じてのものだ。
彼が過剰に心配されることを好まないと、解ってはいるけれど。
「ああ、あれはサプリメントだ」
視線を逸らしたまま、池袋はそう応じた。
「え? お前、サプリなんか飲むの?」
「……私が健康を気遣ってはいけないか?」
有楽町に心配されていると、解っているのだろう。
少しだけ困ったような気配を織り交ぜて、微かな笑みを見せは、した。
だが感じるのは、何かを隠そうとするその気配。
「いや、健康であることが一番だけど。……それ、何のサプリ?」
さりげなく聞いたつもり、ではあるのだが。
池袋は曖昧な笑みを浮かべたまま、答えようとはしなかった。
「池袋?」
促すような言葉にも、口を閉ざして。
「……じゃあ、それ、オレも飲んでいいか?」
矛先を変えた有楽町のその言葉に、池袋は即答した。
「駄目だ」
まっすぐな眼差しで有楽町を見据えて。
反論など許さないという声色で。
「ただのサプリなんだろ?」
「……私がお前に施すものなど、無い」
有楽町が求めるものなど、たった一つなのに。
それを与えられるはずの彼は、そう言って再び視線を逸らした。
→ 「カプセル_03」
The first up_date 2010.05.09